長野県高書研主催講演会「佐久出身 現代書道の父比田井天来と現代書道の始まり」



長野県高等学校書道教育研究会主催

講演会「佐久出身 現代書道の父比田井天来と現代書道の始まり」

ー比田井天来の筆 未公開書簡34通 発見ー



長野県高等学校書道教育研究会主催
講演会「佐久出身 現代書道の父比田井天来と現代書道の始まり」
ー比田井天来の筆 未公開書簡34通 発見ー




 旧北佐久郡協和村(現佐久市望月協和)出身の書家、比田井天来1872-1939を取り上げた講演会が12月1日、佐久市内で行われました。

 天来の孫で、書道関連書籍販売などの「天来書院」(東京都)社長の比田井和子さんが「比田井天来と現代書道の始まり」と題して話し、県下高等学校書道教諭や地元の書の愛好家ら70人が集まり未公開の書籍が披露された。


 現代書道の父と呼ばれる天来は26歳で上京し書家の日下部鳴鶴に指示した。書道教員をしながら古典を見本に書く「臨書」の研究を重ね、新しい書の理念や書風を確立した。

 和子氏は講演で、「天来が日下部鳴鶴から書を学ぶ過程で、当時の主流であった日下部の書法では古典の文字が美しく書けず、探求するうちに独自の書法を発見した」と説明。
「習うだけでは先生を越えられない。苦手でも古典の技法を全て身に付け、自分に合った書法を使えばいい」と紹介し、「この言葉は書だけでなく、人生にも通じる」と話した。

 比田井和子さんは未公開の書簡について、平安時代の公卿・藤原佐理(944-998)に似せた筆跡で書かれているとして、「融通無碍で動的。作品としても価値がある。」と述べた。

 日展会員本会書象会理事長の市澤静山先生は「書簡から新たな事実や人柄が発見されることを期待したい」と話していた。


書簡の詳細や、書簡の訓み下しを行った本会:寺尾硯雲先生の解説などは11/20の信濃毎日新聞の掲載記事をご覧ください。



報告:寺尾 碩雲




【 今回の講演会開催にあたって : 寺尾 碩雲 】

 長野県佐久市出身の書家で、比田井天来一八七二~一九三九)の未公開の書簡34通(佐久市五郎兵衛記念館が依田家より預かり保管)を寺尾が解読・研究したことが昨年11月20日の信濃毎日新聞朝刊のトップページに掲載された。

 新聞を要約すると①同郷の漢学者で恩師の依田稼堂とその息子の源七に宛て、20~50代に書かれたものである。②稼堂が家族を亡くした書簡に触れ、好きなお酒を慎んでお体を大切にすることが朝晩の仏前の礼拝以上に死者の供養になる。③書的には藤原佐理や王羲之などを手本にした筆跡がある。④「寺尾教諭は古典臨書に立脚した筆遣いは芸術性も高い。優しい人柄も垣間見える」と掲載された。

 また、今回の新聞掲載には、全高書研副理事長・小室墨汀先生と県高書研委員長・竹内墨洋先生からのアドバイスも大きかった。
 天来先生は16歳で依田稼堂主催の有隣塾で漢学を学び、書道を独習。26歳で上京し、日下部鳴鶴に師事。東京師範高等学校や東京藝術大学で教員も勤めた。古典臨書を重ね、新たな用筆法を生み出し「近代書道の父」と呼ばれる。
 書道教育にも熱心で、晩年には歴史上の字形の整理に尽力した。著書に「学書筌蹄(がくしょせんてい)」がある。
(平成27年11月20日付信濃毎日新聞朝刊参照)



上條信山先生自伝「硯上の塵」よると、信山先生は昭和四年(22歳)、県展で2回目の最高賞を受賞し、審査員の天来先生より信山の雅号を授かった。
 また、信山先生が昭和37年10月「信濃教育」911号に書かれた『天来先生のおもかげ』(書家を志して昭和7年2月に天来先生を訪ねたときの内容)には、「・・中略・・本当に書をやろうというなら、書の根本である漢学をやっておくことだ。字ばかり習ってもいい書はできない。書には書巻の気といって、読破万巻という学問の裏付けが大切である。・・中略・・経書に目が通れば、聖賢の言葉にふれ、自然に聖賢の魂にふれることになり、人間が内につくられることになる。そこに本当の書ができる。」とある。

 さて、①偶然にも稼堂先生への書簡(26歳・図版参照)の中にも「聖賢(の教え)」の文字が出てくるが、これが天来先生の哲学であり、稼堂先生に学んだ証と推測される。

 信山先生はその2か月後の昭和7年4月、教職を辞して上京。大東文化学院で漢学を学び、書を天来先生に2年間学ぶこととなる。
 また貞子奥様がよく「私と一緒になるために上條は上京して、天来先生に学んだ。私も我慢した。」と話されたことも印象深い。②お二人の先生は奇しくも同じ26歳で漢学と書を志して上京された。③昭和37年の秋といえば先生の代表作「谷神不死」が世に出たときでもある。『天来先生のおもかげ』をすべて掲載できないことが残念であるが、信山先生ご夫妻の人生が方向づけられたときの日のことが熱く語られている。是非とも一読していただきたいものである。








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新聞記事

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下段写真は当日の会場の様子(クリックで拡大)         

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